第3章

三日後、梅雨の多摩霊園。

モリは独り、自身の墓石の前に座っていた。

今日が彼女の誕生日——もし生きていれば、二十八歳になるはずだった。

午後の陽光が桜の木々を抜け、まだらな光の影を落としていたが、空にはすでに分厚い暗雲が集まり始めていた。他の墓参りに来ていた家族連れは次々と去り、霊園はますます静かになっていく。

モリは待ち続けていた。自ら会いに来ると言った、あの人を。

時間だけが刻一刻と過ぎ、空は次第に暗くなり、小雨がぱらつき始めた。

「こんなに雨が降ってきたら、彼はもう来ないわよね」

どんどん密になっていく雨粒を見つめながら、モリの心に失望が込み上げてくる。

雨脚は強まり、小雨はたちまち土砂降りへと変わった。霊園の街灯が一つ、また一つと灯り、雨霧の中でぼんやりと寂しげに浮かび上がる。

「誕生日なんて、大したことないわ」

モリは苦笑しながら言った。

「自分が生きていた頃の姿さえ、もう忘れかけてる」

彼女は墓石の写真に目をやった。そこに写っているのは、活力に満ちた若い女性弁護士、正義のためなら全てを惜しまなかった自分自身。

今や、訪れる者もない孤独な幽霊が残るだけだ。

彼女が待つのを諦めようとした、その時。遠くの霊園入口に、透明な傘を差した人影が現れた。

モリは息を呑み、その見慣れたシルエットが雨の夜の中を懸命に進んでくるのを見つめた。

林田! 本当に来てくれた!

林田は傘を差し、片腕に白いジャスミンの花束を抱え、もう一方の手にはコンビニの袋を提げていた。彼の顔には明らかに新しい傷跡があり、スーツは泥だらけで、どうやら何か不愉快な揉め事を経験したばかりのようだった。

「モリ、来たよ」

林田は墓石の前にたどり着くと、傘を置き、息を切らしながら言った。

モリは感激のあまり言葉も出なかったが、姿は現さなかった。

「道が混んでて、遅くなった。弁当はまだ温かいはずだ」

林田は袋から弁当を取り出し、墓石の前にそっと置いた。

「君の誕生日だ。来ないわけないだろ?」

彼は墓石の写真に向かって語りかけた。

モリは彼の顔の傷跡を見て、胸を痛めながら思った。馬鹿ね、その顔の傷はどうしたの?

林田は傘を傾けて花束を雨から守り、自分自身は雨に打たれるがままだった。彼は墓石に寄りかかって座り込むと、昏い黄色の街灯が雨の夜に温かな光の輪を形成した。

「ずいぶん考えたけど、やっぱりジャスミンを贈ることにしたよ」

林田は花びらを優しく撫でた。

「初めて会った時、自分の名前はモリ(Molly)だって言ってたの、覚えてるかい?」

モリは彼の隣に座った。彼には見えなくとも、彼女には彼の温もりが感じられた。

「君はいつも頑固で、正義のためなら何も怖がらなかった」

林田の声はとても静かで、深い懐かしさを帯びていた。

「君みたいに何にも頓着しない人間は、百まで生きるんだと思ってたよ」

雨水が彼の頬を伝って流れ落ちる。それが雨なのか、涙なのかは分からなかった。

「君は死ぬのが早すぎた……」

林田の声が震え始めた。

「俺たちにはまだ、やり残したことがたくさんあった。まだ話していないことが、たくさんあったのに」

「モリ、君は今……安らかに眠れているのかい?」

林田は最後にそう尋ねた。

その問いは、刃のようにモリの心に突き刺さった。

安らかになれるはずがない。彼が自分のためにこんな姿になっているのを見て、彼の顔の傷を見て、彼の瞳の苦痛を見て……。

安心できるわけがないじゃない。

林田は墓前で長いこと座っていたが、雨足が少し弱まった頃、ようやく立ち上がった。

「これからは、しょっちゅう会いに来るよ」

彼は最後にそう言い残し、傘を差して雨の夜へと消えていった。

モリは彼が去っていくのを見送りながら、胸中は複雑な思いで満たされていた。

数時間後、高村優希が彼女の傍らに現れた。

「そろそろ行くわ」

高村優希の姿はすでにかなり透き通っている。

「私の転生の時間が来たの」

「もう行っちゃうの?」

モリはこの孤独な霊園で唯一の友人を名残惜しそうに見つめた。

「私は行くわ。あなたも早く未練を断ち切って」

高村優希は穏やかに言った。

「いい来世を迎えなさい」

「道中ご無事で」

モリは涙を必死にこらえた。

二人は霊園の奥深くにある黄泉路の入口、あの不気味で神秘的な ユーバーガングスツォーネへとやって来た。高村優希の姿はますます透明になり、転生の道へと足を踏み入れようとしている。

まさにその時、怨念に満ちた人影が突如として黄泉の門の前に現れた。

モリはその顔をはっきりと見た瞬間、全身が凍りついた。

山本翔!

でも彼は出所したはずでは? なぜこんな場所に?

しかも彼の様子は……全身血まみれで、その死に様は凄惨を極め、明らかに誰かに惨殺されたものだった。

「山本翔?」

モリは驚愕の声を上げた。

「どうして……あなたは出所したんじゃなかったの?」

山本翔の怨霊が振り返り、その瞳は怨毒に満ちていた。

「殺された……あの弁護士に殺されたんだ……」

一瞬にして、モリは全てを悟った。

全ての糸が繋がった。ニュースを見た時の林田の氷のような眼差し、彼が言った「俺が処理する」という言葉、そして今日の彼の顔の新しい傷跡……。

「林田……林田があなたを殺したのね!」

モリは苦痛に顔を覆った。

「だから私に会いに来たのね……だから顔に傷があったんだわ……」

そういうことだったのだ。林田は本当にあの事を実行した。彼女の仇を討つため、彼は自らの手で山本翔を殺したのだ。

「モリ、どうしたの?」

高村優希が心配そうに尋ねる。

モリは声を詰まらせながら言った。

「林田が私のために……人殺しになったの」

彼女はついに、林田がこの三年間抱えてきた苦しみを理解した。彼がなぜ自分に会いに来られなかったのかを、彼の瞳に宿っていたあの絶望の色を、理解した。

彼は復讐を計画し続け、山本翔が出所するその日を、ずっと待っていたのだ。

そして今、復讐は始まった。

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